2005年11月26日

ラブ・フォーティ 第176話 〜シロウト〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第175話より続く

 安斎は勝った。が、彼はいらだっていた。最もテニスが似合わない男と揶揄された芳賀にてこずって、10ゲームも費やしてしまった自分に腹を立てていた。おまけに次は7カ月のシロウトとテニスをしなければならないのだ。あの新田にだけは、どうしても6─0で勝たなければならない。一刻も早くあいつを片づけて決勝に進まなければ……。
 芳賀はタオルやドリンクをバッグに放りこむと、ベンチから立ち上がった。ふと横を見ると、審判台の向こうに、やや憮然とした表情の安斎がまだベンチに座っていた。

 芳賀は愉快そうに声をかけた。
「安斎名人に4─6とは、俺も捨てたもんじゃないな」
 安斎は腹から突き上げるものを抑え、無理やり笑顔をつくろった。何でもいいから芳賀に言い返してやりたかった。
「名人は勘弁してください。それより、芳賀さんこそサーブの達人じゃないですか。あのサーブは強力ですね。ただ残念なのは、ときどきとんでもないフォルトがありましたね。あのミスの数本がしっかり入っていれば、さらにいいゲームになっていたはずですよ。確かにテニスはサーブを2本打てますが、だからといって1本目をあのように場外ファウルのようなフォルトにしてしまうのは、いかがなものでしょう」
「さすが、安斎名人。おっしゃるとおり。いずれ個人レッスンをお願いするよ」
 芳賀はニヤッと笑うと、安斎に手を振ってベンチを離れていった。
 とりあえず俺のファイト・バックは終わった。あとは新田次第だな、と芳賀は思った。

 新田は2回戦を勝ち抜くと、誰とも接することなくすぐさま児童公園へ逃げてきた。いまは集中を途切れさせたくなかった。そのために自分を喧噪から隔離したのだ。
 新田は、倉石とのゲームで酷使した足を揉みほぐしながら、ぼんやりと前方を眺めていた。そのあいまいな視界の中に、晴美と理沙はいた。遠くテニスコートの向こうに、豆粒のようなふたりがいた。
 新田は焦点を絞った。
 理沙は飽きてしまったのか、なかば寝そべって本を読んでいる。晴美はしきりと頭を動かしている。顔が、左へ、右へ。ときどき動きを止め、ふたたび左へ、右へ……。

 あいつ何をしているんだろう、と新田は不思議に思いながら、晴美の動きを見守っていた。と、晴美の小さな視線が新田をとらえた。とたんに晴美の表情がフワッとやわらぎ、すっと右腕が真上に伸びた。晴美はその腕を振るでもなく、すんなり静止させている。新田にはそれが何かわかった。晴美の応援だった。腕は振っていないが、晴美は心の中で腕を振っている。それが新田にはわかった。新田も腕をまっすぐ上に立てた。そして、ひとつ大きくうなずいた。晴美もうなずいた。それからふたりは同時に腕を下ろした。

 新田は時計を見て立ち上がった。
 いよいよ準決勝が始まる。安斎との一戦。
 いままでは運のよさもあって勝ち上がれたが、安斎の圧倒的な強さの前にあっては、運は通用しない。

続き(第177話)を読む

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この記事へのコメント
あああ〜。
ここまでの道のりを振り返り、
すでにジーンとくるものが。
晴美ちゃん、お父ちゃんの勇姿しっかり見るのよ!!
Posted by hi-yo(ハイヨ) at 2005年11月26日 11:48
●●●hi-yo(ハイヨ)さんへ●●●
ついに来るべき時が来ました。
見守ってやってください。
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年11月26日 20:47
ついに安斎氏との戦い。
新田氏も戦略をたて戦ってきたが「精一杯」という感じ。
安斎氏はさずがに「余裕」を残しつつ戦っているみたいですね。
でも、安斎氏のイライラ。。。

どうなるんだろう。。。(楽しみ)

Posted by cm113605222 at 2005年11月26日 22:04
●●●cm113605222さんへ●●●
>ついに安斎氏との戦い。
いよいよです!
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年11月26日 23:42