2005年11月27日

ラブ・フォーティ 第177話 〜セルフジャッジ〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第176話より続く

 新田は、コートに向かって歩き始めた足を、ふと止めた。そしてバッグから電話を取り出した。無駄だとは思ったが、一応藤永に電話をしてみた。
 藤永の声は重かった。
「そうですねえ……、安斎さんは完璧ですからねえ……」
「だろうな。じゃあ……」
 新田が電話を切ろうとすると、藤永があわてて声を差し込んできた。
「ちょっ、ちょっと待ってください。あの、これは“ひょっとして”なんですが……、僕の目には、安斎さんのサーブって、たまにフットフォルトじゃないのかなって思えることがあるんですよ」
「フットフォルト? それ本当か?」
「自信はまったくありません。ただ、どうも僕には、サーブが完了する前に、安斎さんの足がベースラインに踏み込んでいるように思えてならないときがあるんですよ」

 これは凄い発見かもしれない、と新田は思った。1回戦、2回戦は、プレイヤー自身がジャッジして試合を進行するセルフジャッジ方式だった。安斎ほどの上級者となれば、かりにフットフォルトしていてもほんのわずかなタイミングの問題だろうから、いままで発覚しなかったとしても不思議はない。しかし、これからの準決勝と決勝戦は審判員がジャッジする。ひょっとすると、その審判員の目には安斎のフットフォルトがひっかかるかもしれない。

 新田は電話を切ると、テニスコートへ向かった。
 大会は16人から4人が生き残り、これからさらにふたりに絞られる。男子準決勝は、1列に並ぶ6面のコートのうち中央2面を空け、その両側のコート、つまり2番と5番コートが使われる。
 女子は参加者8人によるトーナメントであるため、すでに準決勝まで終了していて、決勝はこの男子準決勝のあとに1試合メインでおこなわれることになっている。さらに男子決勝は、女子決勝のあと、本日のファイナルとしておこなわれることになっている。

 新田が2番コートのベンチに座ってから、ほどなくして安斎が現れた。
 5番コートのベンチには、下馬評どおり勝ち進んできた泉岡がキザっぽく足を組んで腰かけている。
 コイントスがおこなわれ、サーブとコートの権利がそれぞれの選手によって決められた。新田はサーブ権を取った。
 審判によるルール確認のあと、別れぎわに安斎は口もとに薄ら笑いを浮かべ新田に言った。
「サーブを選ぶとは、よほどの自信だな」
 新田は何も言わなかった。
 10分間のウォームアップのあと、試合は始まった。

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