2005年11月27日

カナダの刑務所、収容者へ入れ墨サービス


「ベストをめざすことは、ベターをめざす100倍の手間がかかるだけでなく、たいてい不可能である。とくに政治においては」と言ったのは誰だっけ。

“善い”行政ではなく、“より善い”行政をおこなう。
この「より善い」という物言いがなかなかクセモノで、言い換えれば「悪くはない」ということだから、選択肢はいくらでもあるわけだ。

その“より善い”行政の例をたまたま目にしたのでご紹介したい。ロイター(11月25日付)の記事から──
カナダ政府は24日、オンタリオ州バスの刑務所内で、収容者らに入れ墨を施すサービスを試験的に導入していることを明らかにした。不衛生な針の使用による所内での病気感染を防ぐためという。
 政府は、隠れて入れ墨を入れることが針の共同使用につながり、刑務所内での病気蔓延の原因にもなると指摘している。刑務所当局によれば、所内でのB型肝炎およびC型肝炎の感染率は所外の約30倍、HIV感染率は約10倍だという』

刑務所内での入れ墨を禁ずることのほうが“ベスト”と思われるのだけれど、そうすることができないとは……。不可解としか言いようがないのだけれど、“ベスト”ができないのであれば“ベター”を考えるしかない。
つまり、B型肝炎やC型肝炎の感染、HIVの感染が“ワースト”であって、そういうことなら入れ墨行為を公認にしたほうが“ベター”だということなのだろう。

さらに記事はこう伝えている──
『このサービスを受けるには、入れ墨のデザインがギャング的でないこと、人種差別的でないこと、刑務所当局の承認を得ていることが必須条件となっている。また、服役態度が良好であることも条件』

入れ墨の条件が「ギャング的でなく」「人種差別的でなく」「服役態度が良好である」となれば、これはもう“良い子のマーク”じゃねーかよ!(爆)
こんな制約下で入れ墨を入れた日にゃあ、恥ずかしくて刑務所内を歩けなくなってしまうんじゃないかい?

ところで、話はコロッと変わってしまうのだけれど、僕がコピーライターになりたての頃、今でも感心するほど一生懸命に広告の勉強をしていて、国内の広告年鑑はもとより海外のさまざまな広告年鑑を読みあさっていた。確か、その頃に見たもので、ニューヨークの入れ墨屋さん(?)の新聞広告が、いまでも忘れられない。
新聞1ページ全面に、男の裸の背中がクローズアップされていて、びっしりと入れ墨がされている。図柄は覚えていないけれど、日本のものとはまったく違う感じのデザインだった。肩から背中、腕全体を、凝ったデザインのタトゥーがひしめき合うように描かれ、肌を飾り立てている。
そういう写真が新聞全面にドカンと出ていること自体、とても驚いたのだけれど、その広告の一番下に、がっちりとしたゴシック文字で組まれたキャッチコピーに目が行ったとたん、それまで味わったことのない衝撃を喰らった。そのコピーとは──

Surprize Your Wife!』(あんたの女房をぶったまげさせな!)

ある日、奥さんの前でシャツを脱ぎ、くるりとターンして背中を見せると、そこにびっしりとタトゥーが彫り込まれている……。そりゃ、ぶったまげるだろうな(笑)。
ただ、ぼくはその光景を頭に浮かべて「すげえ広告だ」と思ったのではない。

じつは僕は、この広告を食い入るように見つめたであろう人物(読者)を、次のように想定したのだ──けっしてマッチョのような強い夫ではなく、どちらかと言うと、奥さんに日ごと小言を言われたり、鼻先であしらわれたりしている、ウダツの上がらない気弱な亭主──そういう男が、この入れ墨写真と『Surprize Your Wife!』を目にして、「ちくしょう、オレだって、ただのへなちょこ男じゃないんだぞ! その気になったら、こういうタトゥーで変身して……」と、“強さ”を手に入れた自分を一瞬想像してみる。実際には彼は入れ墨を入れたりはしないのだけれど、ほんの一瞬だけ、強くてワルな自分を夢想し、ちょっとニヤッと笑ってから、いつものように会社に向かう……。そんな男の心の光景をしっかりわかって作られている広告のような気が、僕にはしたのだ。

弱虫亭主の一瞬のハードボイルド、かな。

今でも忘れられない広告だ。


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[トロント 25日 ロイター] カナダの囚人たちは、刑務所内に設けられたタトゥーパーラーで入れ墨をいれることができる。これは不潔な針の共有によって病気が広まるのを防ぐ目的で導入された試験プログラムだ。 まさか女刑務所でこんな洋彫りはないでしょうが  肌が白....
TATOO【ASSに向かって打て】at 2005年11月27日 20:33
この記事へのコメント
再び、爆笑です。

それにしても、ホント、目の付けどころが違いますよね、諸海外の広告って。特に広告大賞を取る作品(まぁ、あれはあれのために作られている広告ばかりですけど。。。)。

色々問題があがってる日本の広告業界ですけれども、これからも、もっともっと人を楽しませて欲しいなぁて思います^^
Posted by mihoris at 2005年11月27日 21:49
●●●mihorisさんへ●●●
>それにしても、ホント、目の付けどころが違いますよね、諸海外の広告って。
これもずいぶん以前の英国の雑誌広告なんですが、1ページ全体に美女の微笑顔がアップで載っているんですね。で、その写真の下に「じつは、彼女はHIV(エイズ)に感染しています」といった意味のコピーがあって「その彼女が1年後にどうなったかというと……?」という問いかけになっていて、ページをめくるようになっている。
で、読者は、彼女がどんな症状になっているのかと不安げにめくると、次のページにも、前ページとまったく同じ彼女の顔──まったく健康そのものに見える美しい彼女が微笑んでいるんです。
つまり、感染していても発症していなければ、普通の人とまったく変わりなく、だからこそ(たとえ相手が健康そうでも)感染防止のためにゴムを着用しなさいというキャンペーン広告なんですね。
この広告にはゾッとしました。
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年11月28日 06:25
おぉ。
反面、差別に反対する広告でもありそうですね。
Posted by mihoris at 2005年12月05日 21:16
●●●mihorisさんへ●●●
>反面、差別に反対する広告でもありそうですね。
あ、そうですね。
確か、そのような文意も含まれていたように記憶しています。
大切なことでした。
貴重なご指摘、ありがとうございます。
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年12月06日 07:01