2005年11月28日

ラブ・フォーティ 第178話 〜ファーストサーブ〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第177話より続く

 新田はサーブポジションに立つと、深呼吸をひとつしてからボールをトスアップした。
 先ほどまでコート6面フルで争われ騒然としていた会場が、いまは2面に絞り込まれ、打って変わって静寂に包まれていた。
 新田は予定どおり第1打のサーブを思いきりフォルトした。ボールはほとんど水平に飛び、安斎の後方のフェンスを直撃した。
 ガシャッという音が会場じゅうに鳴りひびいた。理沙は小さな悲鳴を漏らした。芳賀はニヤッとした。誰もが新田を見た。安斎は無表情のまま新田の様子をうかがっていた。誰かが「リラックス、ニッタ!」と叫ぶ。晴美は、新田のこんなにひどいフォルトを初めて見て、わずかに動揺した。

 新田だけは平静だった。
 2本目のサーブ動作に入った。
 打った。縦方向にきつい順回転をかけたボールは、相手コートでドロンと落ちてバウンドするや高く跳ね上がった。
 新田は、いちばん得意なトップスピンサーブをきょう初めて打った。本来なら、今までの試合の中で使い慣らしておくべきものを、あえてここまで使わずに隠しておいたのだ。新田にとってこれは賭けだった。対安斎戦のためにこのサーブをとっておいたのだ。

 賭けは的中した。安斎は度肝を抜かれた。安斎は、新田のサーブをストレート系とスライス系の2種類と観察していた。ところが新田は第3のサーブを隠し持っていたことになる。ファーストサーブをあんなに失敗したというのに、本来なら安全確実に決めていきたいセカンドサーブで初めての球種を打ってくるとは……。新田は何を考えているのだろう。あれは、あいつの作戦か、無謀か、それとも単なる偶然か……。安斎は混乱した。

 安斎は一瞬気をとられ、新田のサーブを甘くリターンしてしまった。そのボールを新田は得たりとばかりにドロップショットした。ボールはフワッと安斎コートのネットぎわに落ち、その場でまるで笑いころげるかのように数回小バウンドを重ねた。安斎はダッシュしてラケットを差し向けたが、すでに遅かった。
 どっと喚声が上がった。
 喚声にはふたつの意味があった。ひとつは、無惨なファーストサービスから一転し、新田が鮮やかなボールコントロールを見せたことへの賞賛。もうひとつは、この大会を悠然とプレイしていた安斎が、ドロップショットに翻弄されたことへの驚きだった。
「15─0(フィフティーン・ラブ)!」
 主審がコールした。

 安斎はゆっくりレシーブポジションに入ると、ラケットを構えるとともに上体を前傾させ、新田に顔を向けた。その顔は口もとに笑みを浮かべてはいるものの、目には冷えびえとした憎悪を溜めていた。

続き(第179話)を読む

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この記事へのコメント
きゃ〜、新田さんと安斎さんの試合、
はじまってる!
あっ、芝生のあそこ、あいてる。
あそこに座ろっ。わくわく。
Posted by hi-yo(ハイヨ) at 2005年11月28日 17:13
始まりましたぁ。緊張しますね。すごい駆け引きになりそうな…。
続きが待ちどおしいです。
Posted by かあちゃん at 2005年11月28日 18:11
●●●hi-yo(ハイヨ)さんへ●●●
>あそこに座ろっ。わくわく。
いちばん良い席で、じっくり観戦してください!
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年11月28日 23:15
●●●かあちゃんさんへ●●●
>始まりましたぁ。緊張しますね。すごい駆け引きになりそうな…。
一球、一打・・・じっくりご覧ください!
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年11月28日 23:23
つづきを読む前に、
また読み返してしまいました。
待ちに待ったこの試合を、じっくり味わいたい〜。
>まるで笑いころげるかのように数回小バウンドを重ねた。
ん〜。しびれます。
Posted by hi-yo(ハイヨ) at 2005年11月29日 18:08
●●●hi-yo(ハイヨ)さんへ●●●
>つづきを読む前に、また読み返してしまいました。
そんなにまでしていただいて、とても嬉しいです!
ありがとうございます!
>待ちに待ったこの試合を、じっくり味わいたい〜。
コートの上、二人の心の中、何が起こるか・・・
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年11月30日 23:07