2005年11月30日
ラブ・フォーティ 第180話 〜ゲームカウント〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第179話より続く
第1ゲームのあとの90秒間のコートチェンジ・タイムで、安斎は、新田の攻撃と防御パターンをすべて整理していた。第2ゲームが始まるころには、安斎はすっかり落ち着きを取りもどし、気持ちを立てなおしていた。
第2ゲーム。ラリー戦を嫌ってネットに詰め寄る新田の動きを、安斎はすでに読みきっていた。新田がリターン&ダッシュしてボレーを打ち込むと、カウンターパンチのように安斎はそれを打ち返し、そのボールは決まって新田の脇を高速度ですり抜けていくのだった。鋭いパッシングショットで、安斎は確実に得点を重ねていった。
新田のネットプレイはことごとく逆襲されるようになってしまった。切りつけると切り返される、切りつけると切り返される連続。15─0……、30─0……、40─0……、そしてゲーム。あっというまに安斎がゲームをひとつ取りもどし、ゲームカウントは1─1(ワン・オール)。
そこから安斎の猛攻が始まった。安斎がたて続けにポイントを決め、次から次へとゲームを奪いとるのだった。力の差が、そのまま得点に現れ始めた。たまに新田にいいプレイが出ると、観客の拍手には同情票が加わり、むなしく盛大な応援となっていくのがわかった。
新田先行のゲームカウント1─0で始まった試合は、すぐに1─1と追いつかれ、そのまま1─2、1─3、1─4と安斎に逆転されてしまった。安斎は4ゲーム連取したことになる。
劣勢の中、新田は極めて平静だった。安斎と自分の力量を考えれば、ごく当然の結果が出ているにしかすぎない、と思った。やはり正攻法では勝ち目はないというだけのことだった。奇襲をかけても安斎は大崩れしないということもわかった。そりゃそうだろう、安斎は百戦錬磨なのだ。小手先の不意討ちでは、先ほどみたいにせいぜい1ゲーム奪いとるのが精いっぱいだろう。勝つためには安斎から6ゲームも取らなければならないのだ。どうしたらいいのだろう?
新田は戦いながら考えた。トオルから授かったロブ作戦にはいまだに抵抗があった。最後の最後まで手を出したくなかった。新田は考えながら戦った。芳賀と密約した“種まき”だけはやっていた。第1ゲームにひき続いて、第3ゲーム、第5ゲームのサーブのときも、1打目をわざと安斎の後方フェンスにぶつけて大フォルトにした。その瞬間、安斎の表情が微妙にうごめき、何やら不穏なものを感じてはいるようだが、それが何なのか考えが定まらぬ様子だった。しかし安斎の気持ちの中で何かがひっかかっていることだけは確かだった。新田はコートの対極にいて、安斎の動静に集中した。
新田は戦い、考え、そして観察した。藤永から聞いた安斎のフットフォルトは本当なのだろうか? サーブをするとき本当に彼の足がラインに踏みいることがあるのだろうか? 第2ゲームと第4ゲーム、つまり安斎にサーブ権がまわっているとき、サーブ時の彼の足もとを注意深く見ていたが、新田の所からは判別できなかった。ただ、安斎のサーブのコンビネーションがときどき微妙にズレることには気がついた。とくに乱戦ぎみのプレイのあとや、安斎がポイントを取られたあとのサーブにズレが起きている。おそらく興奮や緊張をすると安斎のリズムがわずかに狂うのだろう。ひょっとすると、そのときタイミング的にフットフォルト……足の動きにミスが生じているのかもしれない。
突然、ひらめいた。新田は方針を変えてみることにした。ここまでは、じっくりとした戦いでは勝ち目がないと考え、波乱を期待してのボレー攻撃を連発してきたが、これからしばらくは、安斎をいらだたせるつもりでラリー戦で粘ってみることにしよう。相手を打ち負かそうとせず、相手コートにボールを返すことだけに専念すれば、けっこうラリーは頑張れるものだ。勝負を捨て、辛抱を取る。そうすれば、いま勝ちに弾みがつきだして先を急ぎたい安斎のほうが、必ず焦れてくるはずだ。焦れてイライラすれば、変化が起こるかもしれない。サーブにも狂いが出てくるかもしれない。
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Posted by love40 at 07:42
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