2005年12月02日
ラブ・フォーティ 第182話 〜ネット〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第181話より続く
サービスエースが決まると、安斎の気持ちはスッと軽くなった。安斎は悠然とサーブポジションについた。ボールをバウンドさせながら、あと1ポイントで第6ゲームが取れ、そうなるとゲームカウントは5─1となり、さらにもう1ゲーム取れば6─1の圧勝で決着することを噛みしめた。ややうつむいた顔に笑みがにじんだ。その顔をゆっくり上げ、ネットの向こう、新田に視線を振り向けた。すると、そこで新田の薄ら笑いにぶつかった。とたんに安斎の爽快感は吹きとび、訳のわからない不安とともにいらだちが息を吹きかえした。
ファーストサーブが乱れた。
ネットした。
安斎がちらと新田を見ると、「やっぱりネットしたか」と言わんばかりの表情でうなずいている。安斎はカッとする。なんであんなシロウトに、あんな顔つきをされなきゃならないんだ!
いらだちが全身を蝕む。安斎はそれをこらえながら無理やりセカンドサーブをする。
新田は、ふたたび心の中で「またフットフォルトだよ、安斎!」と叫びながら、それでもラケットを止めることなくボールをリターンすると、ベースライン上で待球姿勢に入った。安斎はラリーで長引くことを嫌って、ボレーするためにネットへ向かってダッシュしている。新田も、安斎のボレー範囲を読み、前方へダッシュする。安斎がボレーした。きつい角度でボールは飛んだ。新田はボールめがけて体を投げ出す。と同時にラケットを突き出す。まるでバレーボールの名レシーバーのようにスライディングしながら、地面すれすれでボール下にラケットを滑り込ませた。なんとかボールをすくい上げた。ボールは弱々しい小フライとなって安斎コートへ舞った。
ネット前に詰めていた安斎がそのボールを見すえ、スマッシュの体勢に入る。新田はコートに投げ出した体を起こしながら安斎を見上げた。すると一瞬、安斎の顔が“凶相”にねじけた。新田はゾッとして、逃げるように立ち上がりラケットを構えようとした。が、そのときにはすでに安斎のラケットは振りおろされていた。渾身の力でスマッシュされたボールは、新田の太股にビシッと命中した。わざとやりやがった、と新田は瞬時に確信した。ボールはコート外へ弾けとんだ。足に激痛が走ったが、新田は平然として立ち上がると、安斎と主審に手を上げて無事であることを装った。
「ゲーム! アンザイズ・ゲーム」
安斎がまた1ゲーム取った。
激痛は肉よりも心に刺さった。新田は決心した。次のゲームは修羅場だぞ、と。
第7ゲーム。新田のサーブ。
サーブ動作に入る前に、新田はわざと意味ありげな笑みを安斎へ送った。謎かけのつもりだった。そろそろ安斎に謎を解いてもらいたかった。遠く向こうで安斎が顔をしかめている。
新田がサーブした。
予定どおりボールは安斎の後方フェンスに飛んだ。この試合、4回目の「ガシャン!」という音が響きわたった。
不思議な静寂が流れた。観客は何度も見た大フォルトの光景に慣れてしまって無反応なのか、それとも新田の大劣勢にしおれるように同情しているのか、わからなかった。
そんな中、安斎だけは明らかに異様だった。フォルトを見送りながら、「またかよ」と言わんばかりの侮蔑の表情を浮かべかけ、突然その顔をこわばらせたのだった。次の瞬間、新田を凝視したかと思うと、すぐさま後ろを振りかえり観客の群れを見まわした。安斎の目は、芳賀を探した。
芳賀がいた。芳賀は斜面に寝そべり、腕枕にのせた真っ黒な顔をニヤつかせ、安斎を見ていた。
「あっ」という声が、安斎の口から小さく漏れた。安斎は気づいた。新田の大フォルトと、芳賀の大フォルトが、頭の中でぴたりと重なった。混乱した。何が起こっているのかわからなかった。「落ち着け、落ち着け」と自分に言い聞かせるが、頭の中の嵐と、体が直面しているテニスという嵐が、目まぐるしく錯綜して安斎をさいなんだ。気がつくと、新田に40─0とあっさり追い込まれていた。
安斎のパニックを見ながら、新田はもう一度自分に念を押した。
――何がなんでも勝ちたいんだな?
そして自分自身に答えた。
――何がなんでも勝つ。
続き(第183話)を読む
ランキングに投票ありがとうございます。たいへん励みになります。
Posted by love40 at 08:03
│Comments(2)
この記事へのコメント
わぁぁ。ついに第7ゲームです!
やっぱり今日も、
一度前の回を読み直してから、
つづきを読みました。
その方が、ドキドキが増す!
あしたは、さらに読むテンション↑るでしょう。
やっぱり今日も、
一度前の回を読み直してから、
つづきを読みました。
その方が、ドキドキが増す!
あしたは、さらに読むテンション↑るでしょう。
Posted by hi-yo(ハイヨ)
at 2005年12月02日 17:08
●●●hi-yo(ハイヨ)さんへ●●●
>一度前の回を読み直してから、つづきを読みました。
ありがとうございます!
ビデオをちょっと巻き戻して、前のシーンから見る、って感じですか。
この場面って、数秒の間に起こっている戦いの場面なんですよね。
味わっていただいて、本当に嬉しいです!
>一度前の回を読み直してから、つづきを読みました。
ありがとうございます!
ビデオをちょっと巻き戻して、前のシーンから見る、って感じですか。
この場面って、数秒の間に起こっている戦いの場面なんですよね。
味わっていただいて、本当に嬉しいです!
Posted by
オヤジライター加久時丸
at 2005年12月03日 07:32




