2005年12月04日
ラブ・フォーティ 第184話 〜レモンイエロー〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第183話より続く
第8ゲーム。
安斎は集中した。あと1ゲーム取れば、新田は終わる。あと1ゲームで、あのいまいましいシロウトがコートから失せる。あと1ゲームだ。
安斎はサーブを打ち込んだ。速球がセンターを行く。
新田がセンター方向に横移動しながら、バックハンドストロークを開始した。
振り遅れた、と誰もが思った。案の定、新田はラケットをおっつけるようにして、かろうじてロブで処理した、と誰の目にも見えた。安斎もそう思った。
ボールは、通常見かけるロブよりはるかに高く打ち上がった。選手も主審も観客もいっせいに見上げる。春の光の中、レモンイエローのボールが青みに映えて輝いた。山なりの軌道というよりも、“逆U”の字に近い軌道を描いた。ボールは上昇の頂点に達すると、一転して安斎コートの最後方めがけて落下し始めた。安斎は、コートの後方のベースラインよりさらに3メートルほど後退すると、ボールを待ちかまえた。
ボールはコート白線内でワンバウンドして安斎の前でほどよい高さとなった。安斎は、構え充分なフォアハンドストロークで打ち返した。安斎は舌打ちをした。打ちやすいボールを返してしまったのだ。新田に攻められるな、と覚悟した。ところが信じられないことが起こった。新田はふたたびロブを高々と打ち上げた。安斎はすばやく目測し、ベースラインから2メートルほど後ずさりしてラケットを構えた。
信じられないことがさらに起こった。安斎が打ち返すと、新田はまたもやロブを打つのだった。
異様な光景が続いた。安斎が水平方向にボールを打つと、それを新田は垂直方向に打ち上げる。水平、垂直、水平、垂直……。安斎のストローク、新田のロブ、安斎のストローク、新田のロブ……。
安斎にとって、これはテニスではなかった。衆人監視の中で、このだらしないボールのやりとりは屈辱以外の何物でもなかった。新田はいっこうにやめる気配を見せない。安斎は早く決着をつけたかったが、コートの端ぎりぎりに落ちてくるロブは打ち返すのが精いっぱいだった。
新田はトオルに言われていた。
「低いロブ、短いロブは、スマッシュやグランドスマッシュの餌食になるから気をつけてください。かといって、飛距離が伸びすぎてベースラインをオーバーしてしまえば、ただのアウトです。ベースラインの内側ぎりぎりに落とすんです。それも、コートの両サイドは避けて、なるべくセンターにボールを落としてください。そこだったら相手の返球は予測しやすいです。そこだったら反撃されることはまずありません。
テニスコート片側の面積は約100平方メートルですが、そのうち、新田さんが狙う“ベースラインぎりぎりのセンター部分”は約1平方メートルと考えてください。ですから、ロブはロブでも、100分の1のロブです。そこに何度も打ち返すのはとても難しいですが、いま新田さんが勝つ可能性があるのは、それしかないと思ってください」
トオルは結局、新田のロブ・レッスンに3回つきあってくれた。さらに新田はテニサーたちを相手に、3週間みっちり“100分の1のロブ”に磨きをかけた。
その成果が出た。新田のロブは、その1平方メートルの急所へ次々と落ちていった。
安斎はそのロブを攻めあぐねた。コートのはるか後方に立って、ラインぎりぎりでワンバウンドしてきたボールを、敵陣へむなしく遠打するのみだった。1打ごとに神経は摩耗し、いつのまにか心の奥底へ封じこめたはずのいらだちと混乱までもが決壊し始めた。
続き(第185話)を読む
ランキングに投票ありがとうございます。たいへん励みになります。
Posted by love40 at 08:55
│Comments(2)
この記事へのコメント
キターッ!
と、叫んでしまうでしょう。
あちらの住人の方ならば。
あー、興奮してきたっ!
と、叫んでしまうでしょう。
あちらの住人の方ならば。
あー、興奮してきたっ!
Posted by hi-yo(ハイヨ)
at 2005年12月04日 22:58
●●●hi-yo(ハイヨ)さんへ●●●
>キターッ!
ついにトオルの作戦が・・・
>キターッ!
ついにトオルの作戦が・・・
Posted by
オヤジライター加久時丸
at 2005年12月05日 01:25




