2005年12月06日

ラブ・フォーティ 第186話 〜ブーイング〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第185話より続く

 第9ゲームが終わりコートチェンジ・タイムに入ると、安斎は主審に申し出てトイレへ向かった。コートからロッカールームへ通り抜けるさい、コート出入り口にたたずんでいた泉岡に、安斎はそっと目くばせをした。
 安斎がトイレで便器に向かうと、あとから泉岡が入ってきた。泉岡はつい先ほど準決勝を勝って、安斎の試合を見守っていたのである。

 用を足しながら安斎がため息まじりに言った。
「ロブとはな。恥ずかしくてやってられないよ」
 泉岡はトイレのドアを背でふさぐようにして立ち、安斎にうなずいた。
「プロの試合だったら、いまごろブーイングの嵐ですね」
「まったくだ」安斎は便器から離れ洗面所の前に移った。「なあ、泉岡君」
「はい?」
 泉岡はこころもち耳を向けるようにして安斎の言葉を待った。
 安斎は、洗面所の鏡の中に映っている泉岡に言った。
「いらつくよ、あれには」
 安斎が蛇口をひねった。ほとばしる水の音が響きわたった。

 わずかに間を置いてから、泉岡が鏡の中の安斎にうなずいた。
「わかりました。何とかします」
 泉岡はきびすを返し、ドアを押しかけ、その手を止めた。それから安斎のほうへ顔だけねじった。
「新田さんは本当に始めて7カ月なんでしょうか? あの動きは、どう見ても何年もやっている感じがするんですが」
「新田が嘘をついている?」
「と思うんです。ある意味では、そのほうがホッとしますけど」
「“ホッとする”?」

「だってそうじゃないですか。もし本当に新田さんがたった7カ月であそこまで打てるようになったのだとしたら、そのほうが気味が悪くありませんか? 天才児ならともかく、ふつうの大人が数ヶ月であのレベルに達するには、それこそ死ぬほど練習しないと……」
「なるほど」
 安斎は眉をしかめた。
「では、私は……」言いながら泉岡はあいまいな表情を残してトイレから出ていった。
 安斎は鏡の中の自分を見た。自然と言葉が漏れた。
「“気味が悪い”か」
 静けさの中で水しぶきに気づき、あわてて蛇口を閉めた。とたんに静けさが険しくなった。安斎は逃れるようにトイレから出た。

 クラブハウスの裏手に回ると、泉岡は誰もいないのを確かめながら携帯電話を手早く操作した。相手はすぐ出た。泉岡が用件を話すと、相手は途惑いながらも了解した。

続き(第187話)を読む


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この記事へのコメント
なに、なに?なんだか、フオーン。
Posted by hi-yo(ハイヨ) at 2005年12月06日 11:21
ですねですね、まったく不穏です。
安斎、お前いったいなにたくらんでるんだ!
フオーンフオーン!
Posted by セガワ at 2005年12月06日 22:09
●●●hi-yo(ハイヨ)さんへ●●●
>なに、なに?なんだか、フオーン。
まさしく!
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年12月07日 05:11
●●●セガワさんへ●●●
>安斎、お前いったいなにたくらんでるんだ!
ナイショ。
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年12月07日 05:14