2005年12月07日

ラブ・フォーティ 第187話 〜ワンバウンド〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第186話より続く

 第10ゲーム。
 両選手がコートの端と端に立った。
 安斎はあと1ゲームで勝利というところで足踏みをしている。その安斎を新田は1ゲーム差まで追いあげている。ゲームカウント5─4。
 安斎はサーブポジションについてからも、なかなかサーブ動作に入らなかった。新田の“気味の悪さ”が妙に気になった。
 主審から「レッツ・プレイ!」の声が飛んだ。
 安斎は心定まらぬままに第1サーブを打った。
 甘くなった。安斎の気持ちが知らぬまに出た1球だった。

 第8ゲームのときは、安斎が5─2と3ゲーム差をもってのサービスゲームだったため、失点覚悟できわどいコースにサーブを打ち込んでいったが、いまのゲーム差ではそういう冒険はしたくなかった。もしこの第10ゲームを簡単に落とすようなことがあると、カウントは5─5に並んでしまう。そうなると、さらにあと2ゲーム先取しなければ勝てないことになる。最短でも7─5。そうなってしまっては泥沼だ。ここは何としてでも6─4で勝ち逃げたい。このゲームを落とすわけにはいかなかった。なるべく安全策をとりたかった。

 そのぶん攻めが甘くなった。
 新田コートで甘いサーブは難なくさばかれ、まるで打ち上げ花火のように高々とボールが上がった。
 またもやロブだった。
 安斎は口もとをゆがめボールを見上げた。前へ進み出て無理にでもスマッシュするか、後ろへ下がり、ワンバウンドしてからのボールを確実に打ち返すか……。ボールはすでに上昇から下降へと移り始めた。安斎は迷った。一瞬の迷いだったが、すでにタイミングを逸していた。前は、間に合わない。後ろだ、と体が反応しかけたそのとき、安斎の耳もとで誰かがささやいた。安斎自身の声だった。
「さっき手を洗ったか?」

 トイレで蛇口を開き、それから水の音が気になり蛇口を閉めた。でも手を洗った記憶はなかった。手に水の感触が残っていなかった。「うっ」とうめいた。足がすくむ。ボールは頭上にあった。安斎はあわててラケットを振り上げ振りおろした。ボールはラケットにかすることなく、安斎の後頭部から背中にかけて小さな疾風を巻きおこしながら落下した。
「0─15(ラブ・フィフティーン)!」
 今まで安斎が見せたことのない空振りだった。
 新田は安斎の混乱を感じとった。もうひと押しで安斎は陥落すると感じた。ゲームテンポを速めるために、新田は足早にレシーブポジションにつき、待球姿勢をとるなり体を左右に揺らしてサーブを要求した。

続き(第188話)を読む


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この記事へのコメント
うぉー、緊張する。
こっちがハラハラドキドキさせられますね。
Posted by cm113605222 at 2005年12月08日 01:38
●●●cm113605222さんへ●●●
>うぉー、緊張する。
さて、次はいかなることに……?
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年12月08日 06:14
はじめまして
ボストン在住juodanです。

楽しくよませてもらいました。
これからも更新楽しみにしてます。
Posted by juodan at 2005年12月08日 07:40
●●●juodanさんへ●●●
はじめまして、juodanさん!
>ボストン在住・・・
おお! ボストン!
今の時期、街並みが美しいのでは?
>楽しくよませてもらいました。
ありがとうございます!
>これからも更新楽しみにしてます。
OK(←最後は英語で答えてみました〈爆〉)
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年12月08日 08:07