2005年12月11日
ラブ・フォーティ 第191話 〜セカンドサーブ〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第190話より続く
タツエの驚きがまるで空気感染でもしたかのように、ほとんど同時に安斎の頭の中にも驚くべき仮説が浮かんでいた。もし自分が本当にフットフォルトしていたのだとしたら、それを発見した主審の意識は、新田のフットフォルトに触発されたものではないか、と。しかも、新田のフットフォルトは偶然のものではなく、故意のものではないか、と。そう考えると、きょうの第一打ごとの大フォルトにしても、執拗なロブにしても、すべては新田の執念の産物のように思えてくる……。
安斎はサーブポジションにたたずんで、ひとりゾッとしていた。泉岡が漏らした“気味が悪い”という言葉が、次第にはっきりとした姿を現し始めているように感じられた。セカンドサーブに入ろうとする安斎の体がにわかにこわばった。
新田はレシーブポジションに立って迷っていた。フットフォルトで帳消しになったとはいえ、あれだけ美しくて恐ろしいサーブを見せつけられると、自分のプレイが惨めに思えた。あの美しくて恐ろしいテニスこそ、自分がめざしているものではないのか……。
新田の目がさまよった。前方にいる安斎を直視できず、その向こうの観客たちへぼんやりと視線を投げていた。すると突然、視線をつかまれた。そこに向かって焦点を絞った。晴美がいた。新田は、安斎との試合が始まって以来初めて晴美を見た。ざわめく観客の中で、たったひとり晴美だけが微笑んでいた。その隣を見た。理沙は両手で顔半分を隠し、目だけ心配そうに出している。
新田の目にかすかに笑みが漂う。ふたたび晴美へ視線を戻した。目が合った。と、晴美の目が何か言ったように、新田には思えた。新田は集中した。動くものがあった。晴美の手もとだった。新田は目を凝らした。晴美の人差し指が宙に何か描いている。新田はさらに目を凝らした。小さな曲線だった。新田は思わず声をあげそうになった。晴美のすんなりとした指先が“逆U”の字を描いている。“ロブで行きましょうよ”と言っているように見える。新田はもう一度晴美の顔に視線を戻した。晴美は微笑みをさらに深め、わずかにうなずいた。
それを見たとたん新田の中で何かがはぜた。めまいのような衝撃が走り、思わず新田は目を閉じた。するとまぶたの暗がりに、この何か月にもわたる出来事が一瞬にしてちりばめられた。そのどれもが妻の姿だった。夏の暑い日にテニススクールを訪ねてまわり、ついにはタツエを見つけ出し、冬の夜の寒さをこらえて自転車をこぎつづけ、破門にひるむことなくトオルを探し出してきた晴美の姿だった。
ああ、そうか、僕がここへたどり着くまで、あいつも一緒に全力で走っていたんだ、と新田は思った。目を開けると、どっと光が飛びこんできた。そして白んだ光景がふたたび鮮やかになっていく。テニスコート、ざわめく観客たち、そしてその中に、ひとりだけ、不安のひとかけらもなく微笑む晴美がいた。
新田はラケットを握りなおした。いままで一度も抱いたことのない思いが胸にこみ上げてきた。待球姿勢に入りながら、新田はそれを口の中でつぶやいた。
「そうか、きょうまでずっとダブルスだったんだ」
新田も晴美に微笑みを返した。
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Posted by love40 at 07:16
│Comments(2)
この記事へのコメント
>きょうまでずっとダブルスだったんだ
おおーーーっ!きゅーーーーん!
おおーーーっ!きゅーーーーん!
Posted by hi-yo(ハイヨ)
at 2005年12月11日 22:09
●●●hi-yo(ハイヨ)さんへ●●●
新田はいま、コートの上にひとりじゃないんですよね!
新田はいま、コートの上にひとりじゃないんですよね!
Posted by
オヤジライター加久時丸
at 2005年12月12日 06:52




