2005年12月12日

ラブ・フォーティ 第192話 〜アドバンテージ〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第191話より続く

 安斎は、新田の表情が突然やわらぐのを見て、ますます不安にかられた。このゲームで追いつめたはずの新田が、自分の手の中からスルッと逃げていくような気がした。体がこわばるままにセカンドサーブを打った。スピンをかけそこねた。ボールはすっぽ抜け、浮きぎみの軌道のままサービスラインを十センチほど割った。
「フォルト!」
 場内がしんとした。主審の声がさらに響きわたる。
「40─30(フォーティ・サーティ)!」

 信じがたい連続ミスが、安斎を一瞬にして突きくずした。いったん手にした勝利から真っ逆さまに墜落した感じだった。
 しかも新田のロブが冴えを取り戻し、第10ゲーム終盤から攻勢に出た。「ロブ飽きた」は、気勢をそがれてしまったのか、掛け声も手拍子も起こらず、不思議な静寂感が漂う中でゲームは進行していった。
「デュース!」……
「アドバンテージ、ニッタ!」……
「デュース・アゲン!」……
「アドバンテージ、アンザイ!」……
「デュース・アゲン!」……
「アドバンテージ、ニッタ!」……
「デュース・アゲン!」……
「アドバンテージ、ニッタ!」……
「ゲーム。ニッタズ・ゲーム!」……
 デュースから、もつれにもつれたが、結局新田が第10ゲームをもぎ取った。

 ゲームカウントは5─5となった。
 ついに新田が安斎に追いついた。
 第3ゲームで1─2とリードされてから7ゲームもの間、新田は敗勢の中で安斎を追い続けてきたことになる。そしていま、やっと並んだのだ。まるで、ずっと崖っぷちに立たされてきた自分が、少しだけ内側に立つことを許された感じだった。
 気がゆるんだ。そのとたん新田は自分の足がひどく重くなっていることに気づいた。第2試合の対倉石戦でサーブ&ダッシュ、リターン&ダッシュを連発し走り続けた疲れが騒ぎ始めたのだ。おまけに右太ももに鈍い痛みがひそんでいることにも気づいた。第6ゲームで安斎にスマッシュを直撃された部分だった。

 5─5となってしまったいま、勝敗を決するためには、これから先どちらかが2ゲーム連取しなければならない。それが7─5で決まるのか、8─6なのか、あるいは延々とシーソーゲームとなったすえに10─8で決まるのか、11─9なのか、それ以上になってしまうのか……。それを考えると、新田は足の疲れと痛みがひどく不安だった。が、その不安は、とても正当なもので、誇れるもののように思えた。同時に、新田はこうも思った。ここから先のゲームは小細工が通用する世界ではないだろう、と。だから……

 新田はサーブポジションにすっくと立った。腹で深呼吸した。ああ、空気がうまい、と思った。それから晴美を見やった。晴美の微笑みが跳ね返ってきた。新田は晴美の手もとを見た。晴美の人差し指が動いている。それを見て新田はニコッとして、ひとりつぶやいた。
「そういうことだよ。わかってるね、相棒」
 晴美の指先は、横にまっすぐ一文字を引いていた。

続き(第193話)を読む


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この記事へのコメント
はじめまして
と言っても本当は初めてではないんです
さーて私は誰でしょう??

答えは私のブログに来れば分かります

怪しいものではありませんよ!!
Posted by deko-chan at 2005年12月12日 18:21
●●●deko-chanさんへ●●●
>さーて私は誰でしょう??
ハーイ、ブログへ行ってわかりました!
お元気ですか?
ワンコも元気そうで何よりです!
また遊びに来てくださいね!
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年12月12日 23:01
こんばんは。久しぶりになってしまって一気に読みました。手に汗握るすごい試合が続いてますね。
もうダメかー、と思ったところにフットフォルトがきて、やられたーってかんじでした。
新田さん、離れていてもおくさんとこころが通じあっていいですね。これもテニスのおかげですね。わたしもこんな夫婦になりたいです。
Posted by かあちゃん at 2005年12月12日 23:04
●●●かあちゃんさんへ●●●
>わたしもこんな夫婦になりたいです。
それです!!!
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年12月13日 10:23