2005年12月21日
ラブ・フォーティ 第201話 〜ヒクヒク〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第200話より続く
ほどなくして、晴美に導かれるようにして藤永が入ってきた。猫背の上にのっている藤永の青白い顔が、心配しているというよりは用心深そうに新田を見つめた。新田が笑みを浮かべると、それに応ずるように、細い顎を突き出して一礼した。
晴美は買い物があるのでしばらく中座すると言って病室を出ていった。
「大体のことは奥さまから伺いました」
「そうか。迷惑かけたな」
「いえ、そんなことはないです。芳賀さんも先ほどまで居たんですが、例の春日社長を囲む会に行かれました。あ、そうそう、春日社長がたいへん心配されていました。見舞いに来れないことを詫びといてほしいと言われました」
「そうか。社長には、“どうか気を使わないでください”と伝えといてくれ」
「わかりました。ところで、きょうの大会の、その後の報告をしようと思うんですが……」
「おお、どうなったんだ?」
「安斎さんが優勝しました」
「え?」新田は聞き違えたのかと思った。「優勝は泉岡だろ?」
藤永がけげんな顔をした。
「い、いえ、安斎さんです。泉岡さんは決勝戦で安斎さんに負けました」
「安斎は僕との試合で……、ほら、あの最後のところで、腰を打ったとかで棄権したんじゃなかったのか?」
「いえ、違いますよ。救急車で運ばれた時点で、新田さんが棄権で、安斎さんが勝ちということになっています。安斎さんは、そのあと決勝戦で6─2で泉岡さんを破って優勝してますよ」
新田は顔をしかめた。新田は、自分が倒れる寸前の、安斎と女性主審のやりとりを、藤永に聞かせた。
藤永は身を乗り出して聞いていた。
「なるほど、興味深い話ですね。そういうことがあったんですか。じつは、新田さんの棄権が決定した直後、安斎さんとあの女性主審が、みんなから少し離れたところで、言い合いのようなことをしていたんですよ。主審のほうは、ちょっと途惑っているような顔をして……、で、安斎さんのほうはそれをなだめすかすような感じで……。ほかの人は気がつかなかったようですが、僕には、何か匂ったんですよ。おそらく、その件ですね」
藤永の目が光った。眉間がヒクヒクと動いている。
藤永が何か忙しく考えている様子を、新田は本調子でない頭でぼんやり眺めていた。
しばらくすると藤永が咳払いをした。
「つまり、こういうことですよね。安斎さんはベンチに激突したあと腰痛を訴え、そのため棄権することを主審に申し出た。ところが、その直後に新田さんが棄権すると、前言をとり消して決勝戦に出場し、おまけに優勝してしまった……。これはいったいどういうことでしょうか?
たとえば、新田さんが棄権し、自分も棄権すると、その後の決勝戦が宙に浮いてしまい、せっかくの春日杯に穴を空けてしまうと思って、安斎さんは戦える状態ではなかったにもかかわらず無理を押してプレイをした……。
もしそうだとしたら、これはいわば愛社精神の賜物というやつですよね。しかし、それにしては決勝戦の安斎さんは、腰痛をまったく感じさせない元気そのものの戦いぶりでしたけどね。
むしろ、こう考えたほうが僕にはしっくり来るんですが……。つまり安斎さんは、まだまだ戦える程度の痛みだったにもかかわらず、何らかの理由で、新田さんとの準決勝を途中で棄権しようとした。ところが新田さんが負傷で棄権したことによって、自動的に勝ちが転がりこんできた。それで“しめしめ”と……」
続き(第202話)を読む
ランキングに投票ありがとうございます。たいへん励みになります。
Posted by love40 at 07:52
│Comments(0)




