2005年12月23日

ラブ・フォーティ 第203話 〜ケジメ〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第202話より続く

 晴美は、買ってきたティッシュや歯ブラシなどを袋から取り出すと、備えつけの整理棚に並べ始めた。静かな個室に、晴美の鼻歌がささやかに響いた。
 新田が顔の向きを晴美のほうへ変えて言った。
「なんだか楽しそうだな」
「だって、こうやっていると、小さな部屋で新婚の準備をしているようじゃないの」
 新田は苦笑した。
「そんなもんかい?」
「そんなもんよ」
 晴美がチラッと新田を見た。
 新田は照れくささを紛らわすように聞いた。
「ところで、きょうの試合、どうだった?」
「完璧」
「“完璧”?」
「そう。3試合ともいいゲームだった。いまのあなたの最高が出ていたと思う。そんなところも、私としては新婚気分ね」

「何だ、そりゃ? “最高”……、“新婚気分”……」言いながら突然新田は気づいた。「あれ、理沙は?」
「理沙はタツエさんが連れて帰ったわ」
「タツエさん?」
「あ、そうそう、言ってなかったわね。きょうタツエさんが試合を見に来ていたのよ」
「えっ! ……ほ、本当か?」
「本当よ」
 晴美が含み笑いをした。
 新田は、驚いた表情を顔に貼りつけたまま、しばらく晴美をじっと覗き込んでいた。

 晴美はおもしろそうに見つめ返して言った。
「わ、た、し、が、呼、ん、だ、の」
「あ……」
 新田の口もとがみるみるゆるみ、観念したようにうなずいた。昨夜、壁打ちの帰りにタツエの店の前まで行っておきながら、結局は扉を押すことができなかった自分を思い出した。それを晴美は見ていたのだ。
 新田はばつが悪そうに、気の抜けた声で言った。
「そういうことか……」
「そういうことなの。いけなかったかしら?」
「いや……、でも、きょう、晴美のそばに、タツエさんいたかい?」
「あのね、タツエさんね、私たちから離れた所に座って、しかも、帽子とサングラスで顔を隠して観戦していたの」

「なんで、そんな?」
「“それがケジメだ”って言ってたわ。破門している以上は無関係だって」
「ケジメか……。なんだか、タツエさんらしいや」
「そうね。タツエさんらしい」
 ふたりは顔を見合わせ、静かに笑った。

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