2005年12月25日

ラブ・フォーティ 第205話 〜カレンダー〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第204話より続く

 新田は、タツエと理沙が差し向かいで夕飯を食べている光景を想像してみた。そして、その光景を白いスクリーンに投映するかのように、白い天井を見上げた。
 知らぬまに新田の唇が動いていた。
「お婆ちゃんと孫か……」
 晴美は、物思いにふけっているのであろう夫の邪魔をしないように、そっと微笑んで黙していた。

 静寂が、部屋の空間を際立たせた。
 新田は惹きつけられるように、天井を隅から隅まで眺めていた。ふと思った。そういえば、自分の家以外の天井をつくづくと見たのは、去年の社員旅行の早朝、宴会場のだだっ広い天井を眺めて以来だな、と。
 新田は無意識に腹のあたりを手でさすっていた。よく鍛えられた腹筋が感じられた。1年前の自分を思い出した。あのブヨブヨとした酒漬けの体は、もうここにはなかった。
 ――あれからもう1年がたとうとしているのか……。
 新田は、頭の中にカレンダーを広げてみた。
 ――僕の40歳も、あと数日か……。

 そう思いながら、新田は、きょうの1日、きょうのケガも含め、自分の40歳にいっさい悔いがないことに、不意に、気づいた。
 気づくと同時に、思い出した。先ほどの夢の中の日下部の言葉を。
“どうして男の人っていつも独りよがりなのかしら。……あなたひとりテニスを楽しんでいてよかったのかしら?……奥さんに、あなたはいままで何をしてあげたの?”
 新田の視線の先に、白い天井があった。その天井が、いまにも“白い砂漠”のように白さを険しくし、新田の上に迫ってくるように思えた。その思いから逃れるように、新田は視線を晴美のほうへ転じた。

 晴美は静かに微笑んでいた。
 新田はいくぶん照れくさそうに言った。
「晴美も、テニスを、やってみないか?」
 晴美は意外そうな顔をした。
「あら、急にどうしたの?」
「い、いや……、それもいいかなって、思ったもんだから……」
 新田の言葉を、晴美は頭の中で復唱してみた。そして、クスッと笑った。
「そうね。それもいいかもしれないわね。あなたが教えてくれるの?」
「ああ、僕でよければ……」
「そう。それで、私がうまくなったら、あなたとシングルス戦をやろうかしら? それとも……」晴美はからかうように言った。「あなたとダブルスでも組もうかしら?」

 晴美の表情を下からじっと見ていた新田が、小さくうなずきながら言った。
「それもいいかもしれないな」
「あら、本気? あなたがダブルスやるの?」
「あ、ああ。晴美さえよければ……」
「まあ、嬉しい」
 晴美は大げさすぎるほどはしゃいでみせた。それから、ちょと間を置いてから、意味ありげにまたクスッと笑った。
「でも、やめとくわ」
「えっ?」驚きとも不服ともとれる新田の声が、病室に響いた。

続き(第206話)を読む

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この記事へのコメント
今日もポチッとしにきました!

お互いにがんばりましょうねー

Posted by オーレ 松尾 at 2005年12月25日 14:17
●●●オーレ 松尾さんへ●●●
>今日もポチッとしにきました!
ありがとうございまーす!
>お互いにがんばりましょうねー
年末、バタバタになってまーす。
今年もあと数日ですね。ぜひがんばり抜きましょう!
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年12月26日 07:16