2005年12月27日

ラブ・フォーティ 第207話(最終話) 〜ラブ・オール〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第206話より続く

「あ、そうそう」晴美が思い出したように言葉を継いだ。「あなた、腕は動かせる?」
 新田は不思議そうなまなざしを晴美に向けながら、右手を毛布から引き出し、軽くヒラヒラと動かして見せた。
 晴美は満足そうな表情で言った。
「じゃあ、その手を枕の下に入れてみて」
「枕の?」
「そう。早く」
 晴美にせかされ、新田は枕の下に手を差し入れた。何事も起こらなかった。
「もっと先よ」と晴美は声をわざとひそめ、ほのかに目を輝かせた。

 意味もわからず指図されわずかに苛立つ新田の指先に、何かが触った。紙切れのようだった。それを指にからめると、用心深く引き出した。
 小さな、おそらくは手帳の1ページを切り離したものが、こじんまりと4つに折られていた。新田のけげんそうな表情を、晴美は楽しむかのように「開いて見て」と催促した。
 新田は、左手も取り出して紙切れを開いた。
 幼い字が、新田の目をとらえた。 

『きょうの お父さんは 世界一 かっこよかったよ。りさ』

 一度読んだ。
 もう一度読んだ。
 さらにもう一度読みたくて、字を追おうとしたら目が熱くなってくるのを感じ、振り切るように晴美に顔を上げた。
 晴美が微笑んだ。
「最高の勝利ね」
 晴美が、上半身をわずかに前へ倒した。そのぶん新田との距離が縮まり、新田の顔を真上から覗き込む格好となった。晴美はふたたびクスッと笑った。

「タツエさんがいつも言ってるじゃないの。“勝っているときは作戦を変えるな”って……。いまは、とてもうまく行っているんだから、このままでいいの。私は、あなたのテニスを見ているだけで、とても幸せ。これから先、もし何か起こったら、そのときはそのときで、ふたりで凄い作戦を考えましょうよ」
 新田はうなずきながら、晴美を見つめた。
「“勝っているときは作戦を変えるな”か……」

「そう。“勝っているときは作戦を変えるな”よ」
「じゃあ、また自転車こぎ、頼むか」
 晴美がにこやかにうなずいた。
「まかせといて」
「また試合開始だな」
「そうね。新しい試合。0─0(ラブ・オール)ね」
「ああ、0─0(ラブ・オール)」



      【完】




この記事へのコメント
完結お疲れ様でした!
毎日毎日、更新を楽しみに読ませていただきました。
本当に面白かったです。
変わっていく新田さん自身と、その変化に驚く周囲のリアクションがとても気持ち良かったです。

安斎氏のその後も知りたいですね。
再びライバルとして立ちはだかる(←安斎氏にとって)新田氏をそのままにしてくれると思えないのですが…。
なんか余計なちょっかいを出してきそうで(笑)
Posted by 上月 at 2005年12月27日 08:31
完結ですね! おめでとうございます。
途中からRSSで拝見していたので、あらためて最初から拝見しようと思っています。
Posted by 舛元 at 2005年12月27日 08:34
わわっ!
まさか今日がその日になるとは!

勇気のでる毎日を、
ありがとうございました。
(こんな素敵な40代の夫婦になりたいです。)
Posted by hi-yo(ハイヨ) at 2005年12月27日 12:47
とうとう終わってしまったのですね。
すごく楽しみにしていたので、何とも寂しいです。

お疲れ様でした。
また、別のお話を期待しています。
Posted by うんとこしょ at 2005年12月27日 12:54
完結お疲れ様でした。
毎日毎日本当に楽しく読ませて頂きました。
正直終わってしまうのが寂しいです・・・

次の作品も期待しております。
Posted by SAN at 2005年12月27日 13:40
●●●上月さんへ●●●
>完結お疲れ様でした!
上月さん、ありがとうございます。
応援をいただいてこそ、本日を迎えることができました。
>安斎氏のその後も知りたいですね。……新田氏をそのままにしてくれると思えないのですが…。
確かに!
言われてみると、そのとおりですね!
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年12月28日 07:03
●●●舛元さんへ●●●
>途中からRSSで拝見していたので、あらためて最初から拝見しようと思っています。
舛元さん、ありがとうございます。
ぜひ、何とぞよろしくお願いします!
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年12月28日 07:13
●●●hi-yo(ハイヨ)さんへ●●●
>勇気のでる毎日を、ありがとうございました。
hi-yo(ハイヨ)さん、こちらこそ、いつもあたたかいご声援をいただき感謝しています!
>こんな素敵な40代の夫婦になりたいです。
ぜひ! がんばってください!
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年12月28日 07:20
●●●うんとこしょさんへ●●●
>すごく楽しみにしていたので、何とも寂しいです。
そう言っていただけて、この作品は幸せものです。
うんとこしょさん、ありがとうございます。
>また、別のお話を期待しています。
はい! ぜひ、必ず次のお話で!
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年12月28日 07:26
●●●SANさんへ●●●
>毎日毎日本当に楽しく読ませて頂きました。
僕も、毎日毎日、読んでくださる方々といっしょに歩んでいるような気持ちで、たいへん幸せでした。
>正直終わってしまうのが寂しいです・・・
僕自身も・・・
>次の作品も期待しております。
SANさん、ありがとうございます。
次の作品で、お会いできる日を楽しみにしています!
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年12月28日 07:33
暮れの忙しいこの時期にもかかわらず、一度読み始めるとなかなかやめられずに、ついに読みきってしまいました。
しっかりしたテーマと緻密なストーリー構成。
さらにクライマックスのテニス対戦場面は、見るだけでは計り知れない心理的駆け引きが、思わず引き込まれて行きます。
さらに随所に語られる蘊蓄や諺にも、物語の中にきちんと必然性があって、読み進むうちに深い意味を帯びていることに気付かされました。
わたしはそれほど小説を読んでいるほうではないので、例えて言うのもおこがましいのですが、どこか藤沢修平の「せみしぐれ」を髣髴させるさわやかな読後感が、とてもいいですね。
Posted by ゴマチチ at 2005年12月31日 17:04
なんと言ったらいいか、正直終わってしまうのが寂しいです。いつかどこかでまた新田さんの話が聞けたら…なんてやぼかな^^;
新田夫婦に負けない家族・夫婦になりたいと思いました。
時丸さんもお疲れさまです。とても力強い話でした。ありがとうございました。
Posted by かあちゃん at 2006年01月02日 01:13
●●●ゴマチチさんへ●●●
年末・年始、インターネットから遠ざかっていて、ご返事が遅くなりました。
たいへん申し訳ございません。お許しください。
「あけましておめでとうございます」と申し上げるにしても、日が経っており、お恥ずかしい次第です。
ゴマチチさんにお書きいただいた一言一言に恐縮するばかりです。
こういう時は、お褒めいただいたお言葉すべて、まるごといただき、自分の自信と力にして、次なる作品のエネルギーにさせていただくことが賢明と思うことにし、ゴマチチさんのご指摘をありがたく受け止めさせていただきます。
お読みいただき、誠にありがとうございました。
また、次の作品上で、お会いできる日を夢見て頑張ります。
今後とも、なにとぞよろしくお願いします。
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2006年01月04日 12:12
●●●かあちゃんさんへ●●●
年末・年始、インターネットから遠ざかっていて、ご返事が遅くなりました。
たいへん申し訳ございません。お許しください。
>なんと言ったらいいか、正直終わってしまうのが寂しいです。
いつもかあちゃんさんに応援していただき、コメントをいただいた、そういった日々がひとまず終わってしまうんだなあ・・・そんなことを思うと、僕自身も寂しい思いにかられます。
>新田夫婦に負けない家族・夫婦になりたいと思いました。
ぜひ! 頑張ってくださいね!
>時丸さんもお疲れさまです。とても力強い話でした。ありがとうございました。
207話の長い旅路におつきあいいただき、かあちゃんさんもお疲れさまでした。
誠にありがとうございました。
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2006年01月04日 12:24
パチパチパチっ^o^pp

いや〜。面白かったです。

ラブオール。Love All.
クリスマス直前に、「ラブアクチュアリー」をDVDで観たんですヨ。
Love Actually is all around.
心を受けると書いて愛。
今年は昨年以上に愛で満ちあふれている世の中にしていきたいと思います。勿論、自分の生活も!!!

新しい作品、楽しみにしております☆
Posted by mihoris at 2006年01月08日 17:27
●●●mihorisさんへ●●●
ご返事がたいへん遅くなって申し訳ございません。
mihorisさんには、いつもひとつひとつコメントをいただいて、そのたびにパワーをいただき、とてもとても感謝しています。
ここで、しばらく熟考期間をいただいたうえで、再スタートする予定です。
>ラブオール。Love All.
テニスカウントでは「0-0」。すべての最初。そして、生きていくうえで、とても大切なこと「Love All.」 こここそが、出発点。
これからもなにとぞよろしくお願いします。
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2006年01月12日 17:07