2006年11月16日

連載小説「夜になったら空を見よう」第7話


(最初からお読みになりたい方はこちら→【夜になったら空を見よう 第1話】 )

第6話より続く

「あのバカ教師が土下座をしている頃には、ボクはもう家出の準備をしていた」
「最初から、ここに来るつもりだったのかい?」
「ほぼ」
「どうして?」
「富士の樹海って、迷い込んだら二度と出られないって言うじゃん。もし本当にそうなら、ここは正真正銘の魔界なわけだし、世界の殺戮と同じ気分になれるかな、って……」

「で、どうだった?」
「二年間この辺を歩き回っているうちに、地形もわかってきて、街や集落にたどりつくための、見えない道もつかめてきたし。二度と出られないって感じではなくなったね。でも……」
「“でも”?」
「魔界には違いないね」
 ジェロニモはクッと小さく笑った。
 オレは自分の胸苦しさを払うように、言葉を発した。
「ところで……、その友だちとは、その後会ったのかい?」
「会ってるよ。てゆーか、ほら、スズキさんの隣に座ってるもん」
 ジェロニモは真顔で、ボクの横の岩の上を指さした。オレは反射的に逆側に身を投げ出した。

 ジェロニモが声を立てて笑った。
「スズキさんって、やっぱり課長代理クラスだね。そんなに驚かなくてもいいのに。吉本新喜劇のノリだよ、そのコケ方は」
「驚くに決まってるだろ!」オレは身を立てながら声を荒らげた。「《魔界》だの、《そこに座ってる》だの……」
 ジェロニモは視線を落とし、自分の泥だらけの足の甲をさすりながら、サラリと言った。
「でも、本当に、阿久津はそこに座っているんだもん。阿久津の脳挫傷は完治したんだけど、その後、高校に入学して間もなく死んだんだ」
「死んだ? どうして?」
「わからない。一年ほど前に阿久津が突然ここに現れて、《オレ、死んじゃったらしい》て言って、それからそこに座ったまま、ずーーーっといるんだ。毎日いろいろ話はするんだけれど、どうして死んだかは教えてくれないんだ。阿久津って、その、例のボクの友人ね」
「わかりやすく言うと、オレの横にいるのは、阿久津くんの霊ってわけ? オレにはぜんぜん見えないんだけど」

「そういうことになるのかな。ボクは見えるよ」ジェロニモは、オレの隣の空間を見つめて声を発した。「あ、おまえなら、スズキさんの過去がわかるんじゃないの? ……ふーん、ダメなんだ。霊ってそんな程度なの? 情けねえなあ」
 ジェロニモは、思いきり気落ちした表情をオレの隣に向け、それからわずかに視線を移動してオレを見つめた。
「スズキさん、やっぱ自分の過去は自分で見つけるしかないんじゃないの?」
 ジェロニモは何かの木の根っこを歯でしごくようにかじりながら、オレの反応を待った。


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この記事へのコメント
Welcome Back!!

あと少しで首長族になりそうでした。。

楽しみに拝読させていただきますっ!!
Posted by ままぷりん at 2006年11月18日 18:42
●●●ままぷりんさんへ●●●
きゃはー! ままぷりんさん、お久しぶりです!
長いあいだ体調を崩してしまって、ご無沙汰しちゃいました。
>あと少しで首長族になりそうでした。。
ミャンマーの山岳少数民族に、
首の長〜い女性たちがいらっしゃいますねえ。
ふと想像してしまいましたよ。
>楽しみに拝読させていただきますっ!!
ありがとうございます。
よろしくお願いします!
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2006年11月18日 21:57