2006年11月25日

連載小説「夜になったら空を見よう」第11話


(最初からお読みになりたい方はこちら→【夜になったら空を見よう 第1話】 )

第10話より続く


「ということは、どういうことになる?」
「つまり、スズキさんは人殺しではない、ってこと。少なくとも、仮にスズキさんが人を刺しているとしても、その人は生きているってこと」
「じゃあ、オレはここで何をやってるんだ? どうして崖から落ちたんだ? それに……」オレはジャケットの右袖口をつかんだ。「この血痕は何なんだよ? 阿久津くんなら、この血が何かくらいわかるんじゃないのか?」
 オレは、五メートルほど右横の空間と前方のジェロニモを交互に見ながら言った。

 ジェロニモは阿久津に顔を向けた。
「どうなの? ……あ、そうなんだ。じゃあ、ダメだね」
「何だって? 阿久津くんは何て言ったんだ?」
「霊体の有無はわかるけど、それ以外はよくわからないって」
「それ、どういうこと?」
「だから、その血痕の主は死んではいないんだよ。傷を負って出血したけれども、生きているってこと。だから阿久津は、そいつを霊体としてキャッチできないわけ。だって、死んでいないんだもん。だから死体を熊が引きずり込んだという線もないってことになるね。ひょっとすると、スズキさんはその相手に崖から突き落とされたのかも」ジェロニモは無責任な薄ら笑いを浮かべた。「そいつが何者で、いまどうしているか知りたいなら、むしろ警察とかに頼ったほうがいいかもね。ま、いまのところスズキさんは、可能性としては最悪でも傷害罪って感じじゃないの?」

 とにかくジェロニモのテントに戻ることにした。途中、埋め隠した包丁を掘り出した。ジェロニモに預けた。
 テントまでの道のりを、つらくも遠くも感じられないほどオレは混乱していた。ジェロニモは、キノコや木の実やヘビや虫などを捕り集めていたが、オレは手伝うこともできず、口をきくこともできないでいた。ただ歩き、ジェロニモに合わせて立ち止まり、また歩いていた。ジェロニモはオレをそっとしておいてくれた。十七歳なのに、オレの気持ちを含め、世界のあらゆることをしっかり見定めているように思えた。対してこのオレは、何もわからない。いままで何をやってきて、これから何をしようとしているのか、まるでわからない。ジェロニモは阿久津とともに、オレに関するいくつかの仮説を立ててはいるが、それだって確証があるわけではない。霊体がどうのこうのと言われても、オレ自身の中が空っぽのようなものなんだから、信じる基準というものがまったく芽生えてこない。何なんだ、オレって?

 ジェロニモはこの二年間で自分の中を整理してしまって、《あっちの世界》へ行こうかなと言っている。あの確固たる決意は、後ろ向きの感じがまったくしないし、少なくとも彼自身は前進しているという感触をもっているに違いない。《若き仙人》の到達点がそこなら、それはそれで立派なような気がする。子供たちを失望させているのは大人たちだという彼の怒りは、オレの胸を突き刺すものがある。この大人のオレはいままで何をやってきたんだろう? 彼の言うように、子供を失望させる大人として生きてきたんだろうか。思い出したい! いま、無性に思い出したい! 恥ずかしくて情けない過去であっても、思い出せないことには何もできない。


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この記事へのコメント
ジェロニモと聞くとキン肉まんしか連想できない自分が悲しい、とか思いながら全部読んじゃいました☆
Posted by 無料占いnet at 2007年09月18日 15:41
●●●無料占いnetさんへ●●●
>ジェロニモと聞くとキン肉まんしか連想できない自分
(苦笑)
>全部読んじゃいました☆
ありがとうございます。
この小説、中断したままで、
いつか再開したいと思ってるんですが……
再開したら、また読んでくださいな。
よろしくお願いします!
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2007年09月19日 19:41