2006年11月28日
連載小説「夜になったら空を見よう」第12話
(最初からお読みになりたい方はこちら→【夜になったら空を見よう 第1話】 )
第11話より続く
たき火を囲み、ジェロニモがさばいたヘビをむさぼった。油っぽくクセのある味だが、添えた焼きキノコを合わせて食べるとなかなかいける。「醤油があると最高だな」と言うと、「醤油かあ、懐かしいなあ」とジェロニモは微笑み、木の間越しにきらめく夜空を見上げた。細く鋭利なあごが目に入り、少年らしい繊細さがたき火の炎に揺れる。
「家のこととか思い出さないのかい?」と尋ねると、スッと冷えたまなざしに戻り、「小さな幸せ、大きな不幸」とポツリと言って口を閉ざした。どういう意味か、オレにはわからなかった。ただ、ジェロニモの視線が、たき火の炎を越えて、阿久津がいるのであろう空間をうかがっているように感じられた。何か阿久津に遠慮しているような気配。阿久津は死に、阿久津の家族はこわれ、世捨て人となったジェロニモのもとへ阿久津は霊となって現れた。死んだ理由は教えてもらえない。しかし、ちょっとした誤解から、仲のよかった二人のあいだは裂かれたことは事実で、そこから歯車が狂い出し阿久津は死んだとジェロニモは思っているのではないだろうか。
オレは気詰まりな沈黙の中で、勝手な想像を膨らましていたが、それにも疲れ、ふと目に入ったずぶ濡れの靴を脱ぎ、たき火にかざした。湯気が上がり始める。靴下をはいた足からも蒸気が漂っている。すると、それまで黙りこくっていたジェロニモが「何だ、それ?」と独り言のようにつぶやくなり、地面に腰掛けた姿勢から四つん這いになり、たき火を迂回してオレの足もとへ寄ってきた。彼はオレの左足の裏をじっと見つめた。さらに徐々に顔を低くし、足の裏を舐めるように這いつくばって、何かを凝視している。ジェロニモの妙な振る舞いに、オレは体をこわばらせ、ただじっとしているしかなかった。
やっと声が出た。
「どうしたんだよ、ジェロニモ?」
ジェロニモは、答えない。口の中でモゴモゴ言いながら、しきりと頭をかしげている。
「スズキさん、ちょっとその靴下脱いでみて。そっとだよ」
「どうしたんだ?」
「いいから、とにかくそっと脱いで」
ジェロニモの緊迫した表情にオレは気圧され、注意深く左の靴下を脱いだ。湯気を吐く紺色の靴下はまるで生き物のように見え、オレの手からジェロニモの手へと渡された。ジェロニモは靴下をたき火にさらに近づけ、火明かりを頼りに何かを見ている。オレものぞき込んだ。靴下の裏には、小さな値札が貼り付いていた。何か書いてある。しかし、水を吸い、靴の中でこすれ、印字がぼやけて容易に読みとれない。ただ、文字と数字であることはわかる。
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Posted by love40 at 22:49
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