2006年11月30日
連載小説「夜になったら空を見よう」第13話
(最初からお読みになりたい方はこちら→【夜になったら空を見よう 第1話】 )
第12話より続く
「《コ》……」と発声して、息をのみ込んだジェロニモが、「そうか、《コウヅ》……、《店》? いや《屋》だ。《コウヅ屋》だ」と声をはずませた。そして、ふたたび沈黙。さらに火明かりを求める。「数字だ。《4》……。その次の文字がわからないなあ。そのあとは《1000》……《円》……だよ」
オレが指をパチンと鳴らした。
「じゃあ、もしこの値札が靴下のものなら、たぶん《4足1000円》じゃないのか?」
「アハハ、なんか涙が出るほどサラリーマン的だね、スズキさん。たぶん、この靴下は《コウヅ屋》っていう店のバーゲン品で、《4足1000円》なわけだ」
「その値札が貼り付いたままの靴下をはいて働いているオレって、かなり悲しいよな」
「でも」ジェロニモのゆるんだ表情が引き締まった。「それはそうとして、スズキさんを知る手がかりが、また見つかったってことになる」
「コウヅ屋なんて聞いたことないよ」
「たぶん……、奥さんが買ってきたもので……」言いながらジェロニモの表情が心なしか曇った。「だけど、値札をはがすこともなく、無造作に夫のタンスに入れた……?」
オレの胸の底がズキンと揺れた。
「ずいぶん、きついこと言うな」
「単身赴任……。それとも独身かもね。自分で4足1000円の靴下を買っているサラリーマン」
「なんか、ロクな過去じゃないないようだな。記憶喪失のままのほうが幸せなのかも」
オレがそう言った直後だった。「記憶こそ人間だよ」という声が響き、フワッと風のような、いや風よりももっと何か質感のあるものが、オレの右側から吹き寄せ、オレの体を通過していった感じがした。ジェロニモはオレの左側に座っている。
オレはジェロニモを見て言った。
「いま何か言った?」
「何も」
「なんか風のようなものが吹きつけなかった?」
「何も。どうしたの?」
「い、いや、別に、何でもないんだ」
阿久津がオレに話しかけてきたんだ。きっと阿久津が、自分の存在をじかにオレに示してきたんだ。記憶こそ人間……。それがどんなにみじめな記憶でも……。
ジェロニモが声をはずませて言った。
「とにかく手がかりができたんだ。行動開始しなければ!」
「行動開始? 何をするんだよ?」
第14話に続く
Posted by love40 at 23:13
│Comments(4)
この記事へのコメント
こんばんは。
いつも細かいしぐさや状況が書かれていて、自分がそこにいるかのように読んでしまいます。
でも、実際こんな状況になってしまったら冷静でいられるんだろうか…。自分がどうなってしまうのか不安になります。
いまの自分だって大いにあやふやなものだけど、記憶がなくなるということはとっても不安定なものなんでしょうね。
思い出したくない過去でも、記憶として残ってるから前に進めるんだなーって思いました。
いつも細かいしぐさや状況が書かれていて、自分がそこにいるかのように読んでしまいます。
でも、実際こんな状況になってしまったら冷静でいられるんだろうか…。自分がどうなってしまうのか不安になります。
いまの自分だって大いにあやふやなものだけど、記憶がなくなるということはとっても不安定なものなんでしょうね。
思い出したくない過去でも、記憶として残ってるから前に進めるんだなーって思いました。
Posted by かあちゃん
at 2006年12月04日 21:14
●●●かあちゃんさんへ●●●
ご返事が遅くなってすみません!
じつは、いま迷っています。
「夜になったら空を見よう」ですが、
書き始め当初に描いていた今後の展開を、大きく変えたくなってしまい、
変えるにしても、ストーリーの先行きが頭に描ききれないので、
その辺のイメージづくりをやっているところです。
もしかすると当初考えた展開のほうがいいのかもしれない、
という思いもあるので、始末が悪いです。
うーーーーん、どうしよう……。
もうちょっと、考えさせてください。
ご返事が遅くなってすみません!
じつは、いま迷っています。
「夜になったら空を見よう」ですが、
書き始め当初に描いていた今後の展開を、大きく変えたくなってしまい、
変えるにしても、ストーリーの先行きが頭に描ききれないので、
その辺のイメージづくりをやっているところです。
もしかすると当初考えた展開のほうがいいのかもしれない、
という思いもあるので、始末が悪いです。
うーーーーん、どうしよう……。
もうちょっと、考えさせてください。
Posted by
オヤジライター加久時丸
at 2006年12月07日 21:10
ゆっくりじっくり考えてください。
ゆっくりじっくり待ってます。
後悔はしないでくださいね。
ゆっくりじっくり待ってます。
後悔はしないでくださいね。
Posted by かあちゃん
at 2006年12月11日 11:22
●●●かあちゃんさんへ●●●
>後悔はしないでくださいね。
そのお言葉、ありがたく胸にしまいます。
>後悔はしないでくださいね。
そのお言葉、ありがたく胸にしまいます。
Posted by
オヤジライター加久時丸
at 2006年12月12日 00:15




