2005年10月23日

世界が尊敬する日本人

尊敬される日本人100人いま発売されている『Newsweek日本版』(10月26日号)に、「世界が尊敬する日本人」という特集が出ている。

ここでは日本人が100人ピックアップされていて、それぞれのプロフィールや功績などが紹介されている。
当然ながら、「100人」という枠を設けていること自体に限界があるわけで、「なぜこの人が選ばれていて、この人が載っていないの?」などという印象は生じがちで、その辺に不満やら批判やらを感じてしまうと、面白くない読み物となってしまうかもしれない。

ひとことだけ付け加えておくならば、この特集の狙いは「かつては過剰に日の丸を意識して世界に繰り出していた日本人が、その枠組みから解き放たれ始め、いま、きわめて個人の自然発生的な活動の成果が、世界で認められつつある──それを、ここでは“グローバル人”と呼びたい」と同誌は位置づけているようで、そんな人々に古今を超えて着目している。

なにしろ、登場人物の中には、古くは「紫式部」さんから現代の「NIGO」さんまでが(ある意味ランダムに)ラインナップされ、また、日本的キャラとしてのプッチーニ・オペラ「蝶々夫人」や、そのほか「ゴジラ」「コボリ」まで登場するわけだから、この100セレクトは編集部内でも相当物議をかもしたのではないだろうかと思われる。

ま、人それぞれいろいろ感想はあるだろうけれど、毎年この時期にマスコミでもてはやされる『ベストジーニスト』や『日本メガネベストドレッサー』などを眺めているより、おもしろい、と思う(苦笑)。

なお、下に同誌に掲載された100人をリストアップするけれど、なるべくバイアス(先入観・偏見)を帯びないように人名を“アイウエオ順”に並べ、肩書きもそっけないほど単純にした。
あらかじめ申し上げておくけれど、それぞれひとクセもふたクセもある人物たちではあるけれど、100人ともなるとずっと見ていると「視覚的に胃にモタれる」ので、サラッと流し読みする程度をおすすめしたい。真剣になればなるほど、もっと載せたい人物が現れるはずだし……(苦笑)

では、お気軽にお楽しみください。なお、詳細は『Newsweek日本版』(10月26日号)を、どうぞ。

【ア〜】
青木功(あおき いさお):プロゴルファー
天児牛大(あまがつ うしお):山海塾主宰
荒木経惟(あらき のぶよし):写真家
イッセー尾形(いっせー おがた):役者
井上大祐(いのうえ だいすけ):カラオケ発明者
上杉鷹山(うえすぎ ようざん):米沢藩主
上原彩子(うえはら あやこ):ピアニスト
梅田芳穂(うめだ よしほ):元「連帯」マゾフシェ地区国際局次長
エイコ&コマ:尾竹永子&隆の舞踏家
江崎玲於奈(えさき れおな):物理学者
大植英次(おおうえ えいじ):指揮者
小津安二郎(おず やすじろう):映画監督
岡村昭彦(おかむら あきひこ):写真家・ジャーナリスト
小倉昌男(おぐら まさお):元ヤマト運輸社長
小野伸二:サッカープレイヤー

【カ〜】
魁皇(かいおう):大相撲力士
加治屋百合子(かじや ゆりこ):バレリーナ
片山豊(かたやま ゆたか):アメリカ日産初代社長
葛飾北斎(かつしか ほくさい):画家
神尾真由子(かみお まゆこ):バイオリニスト
喜多郎(きたろう):作曲家・シンセサイザー奏者
桐野夏生(きりの なつお):小説家
クーデンホーフ光子(クーデンホーフ みつこ):オーストリア伯爵夫人
黒田アキ(くろだ あき):芸術家
黒田東彦(くろだ はるひこ):アジア開発銀行総裁
ゴジラ:怪獣
胡暁子(こ あきこ):タイガーバーム社長夫人
小泉純一郎(こいずみ じゅんいちろう):現・内閣総理大臣
小泉八雲(こいずみ やくも):作家
コシノミチコ(こしの みちこ):ファッションデザイナー
小竹守(こたけ まもる):コロッケ製造販売会社「コロちゃん」社長
コボリ:タイの人気作家トムヤンティの小説『メナムの残照』の主人公
小松正之(こまつ まさゆき):農学博士

【サ〜】
冴木杏奈(さえき あんな):タンゴ歌手
坂本龍馬(さかもと りょうま):土佐藩士
佐藤琢磨(さとう たくま):F1ドライバー
佐藤孟江(さとう はつえ):料理家
篠田桃紅(しのだ とこ):画家
ジョン万次郎(じょん まんじろう):幕末の通訳・教師
鈴木健想(すずき けんぞう):プロレスラー
鈴木鎮一(すずき しんいち):バイオリン教育者
鈴木宗男(すずき むねお):衆院議員
鈴木裕(すずき ゆう):ゲームクリエーター
諏訪淳彦(すわ のぶひこ):映画監督
妹島和世(せじま かずよ):建築家
千利休(せん りきゅう):茶人

【タ〜】
高田賢三(たかだ けんぞう):ファッションデザイナー
高橋和希(たかはし かずき):漫画家
高橋ともこ(たかはし ともこ):アーティスト
高橋久雄(たかはし ひさお):壁画修復画
竹村延和(たけむら のぶかず):DJ、作曲家、ミュージシャン
谷口吉生(たにぐち よしお):建築家
田伏勇太(たぶせ ゆうた):日本人初NBAプレイヤー
鄭 成功(てい せいこう):中国・明〜清時代の武将
DJクラッシュ:DJ、プロデューサー
徳川家康(とくがわ いえやす):江戸幕府創始者
ドラえもん:アニメ主人公
鳥山明(とりやま あきら):漫画家
蝶々夫人(マダム バタフライ):オペラ内の芸者

【ナ〜】
中沢啓治(なかざわ けいじ):漫画家
中谷剛(なかたに たけし):アウシュビッツ博物館公式ガイド
中田秀夫(なかた ひでお):映画監督
中村征夫(なかむら いくお):水中写真家
中村雁次郎(なかむら がんじろう):歌舞伎役者
NIGO(にご):デザイナー
西岡京治(にしおか けいじ):農業技術指導者
西角友宏(にしかど ともひろ):ゲームクリエーター
西崎崇子(にしざき たかこ):バイオリン奏者
野口孝行(のぐち たかゆき):人道支援家
野口英世(のぐち ひでよ):医学博士・細菌学者

【ハ〜】
早川雪舟(はやかわ せっしゅう):日本人初ハリウッドスター
パフィー:ポップデュオ
ヒロ・ヤマガタ:画家
Hiromix(ひろみっくす):写真家
深作欣二(ふかさく きんじ):映画監督
藤波貴久(ふじなみ たかひさ):オートバイトライアル選手

【マ〜】
松浦晃一郎(まつうら こういちろう):ユネスコ事務局長
松村喜秀(まつむら よしひで):偽札鑑定家
三船敏郎(みふね としろう):映画俳優
宮崎駿(みやざき はやお)アニメーション作家
宮地充子(みやじ あつこ):暗号化技術開発者
宮本亜門(みやもと あもん):舞台演出家・振付師
向井千秋(むかい ちあき):宇宙飛行士
村上雅則(むらかみ まさのり):日本人初米大リーガー
紫式部(むらさき しきぶ):作家・歌人
森嶋通夫(もりしま みちお):経済学者

【ヤ〜】
柳宗悦(やなぎ むねよし):日本民芸運動創始者
山本五十六(やまもと いそろく):連合艦隊司令長官
山脇巌(やまわき いわお):建築家
吉沢章(よしざわ あきら):創作折り紙作家
横田宗隆(よこた むねたか):パイプオルガン建造家
吉田準輝(よしだ じゅんき):ソース製造販売のヨシダグループCEO
吉野健(よしの たてる):フランス料理シェフ

【ラ〜】
呂宋助左衛門(るそん すけざえもん):戦国時代の貿易商
レインスティック・オーケストラ:角田縛と田中直道の音楽ユニット
レナード衛藤(れなーど えとう):和太鼓奏者

【ワ〜】
和久田哲也(わくだ てつや):「テツヤズ」オーナーシェフ
渡辺貞夫(わたなべ さだお):ジャズプレイヤー
渡辺淳一(わなたべ じゅんいち):作家

以上


ランキングに投票ありがとうございます。本当に励みになります。  
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2005年10月04日

僕がブログを始めた理由

僕は、30年ほど前からものを書き始め、生業としてコピーライターなどしてきましたが、そのかたわら「小説家」への夢をもって作品を書いてきました。しかしながら、日の目を見ることなく今日に至ってしまいました。
ライター仲間は「おまえの小説はかなりイケてる」と言ってくれるのですが、こればかりはどうしようもありません。出版社や編集者のお眼鏡にかなわなければ何とも致し方がありません。

そんな時、ブログでの作品公開を思いつきました。ほんとうに自分の書くものはダメなのかどうか、直接読者となってくださる方々にうかがおうと思ったのです。

長きにわたって連載しました小説『ラブ・フォーティ』の主人公・新田真一は、ことさら特異なキャラクターではなく、また、ことさら変奇な境遇にいるわけでもなく、ごく普通の人生を送り、中年にさしかかった男です。
若いときのように無限の夢をいだける歳ではなく、現実だけが重くつきまとう毎日の中で、「自分の人生は、このまま閉じていくのか」と思い始める頃の話です。

『世界の中心で、愛をさけぶ』のような、若い人・若い頃をテーマにした作品はフツーにたくさんあるのに、“フォーティ”(40歳ころ)のライフ・ストーリー──それも普通の人の“フォーティ”物語が、この国で浮上しないのはなぜだろう、という疑問をずっと抱いていました。

“おとな”の小説として(ついでながら言うと、“気楽に読める”小説として)、僕は『ラブ・フォーティ』を書きました。そして、できれば、この作品をもっともっと多くの人に読んでいただくために、どうしても出版したいと思っています。
みなさん、どうかオヤジを応援してください。そして、僕に力を貸してください。よろしくお願いします。

●2006年11月3日・加筆
たいへんご無沙汰しておりました。
昨年(2005年)末にブログを休止して以来、10ヶ月ほどが経ってしまいました。その間、大病をしてしまったこともあり、鳴かず飛ばずの日々を送っていました。
今後、定期的に書けるかどうかわかりませんが、『夜になったら空を見よう』というタイトルの“短編小説”を連載することにしました。
“長編小説”『ラブ・フォーティ』とともに、ぜひ『夜になったら空を見よう』もお読みください。なにとぞよろしくお願いします。



※連載小説『ラブ・フォーティ』は、こちらからお読みになれます。
  【 ラブ・フォーティ 第1話 〜チョンマゲ〜 】  
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2005年07月26日

わが家の『ちびくろ・さんぼ』物語


ちびくろ・さんぼ
先日、荒井良二さんという絵本画家が、日本人で初めてアストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞したことを書いた。
その際、僕は「たまには絵本でも読んでみようかな」と思い立ち、押し入れの奥の奥から段ボール箱を引っぱり出し、その段ボール箱の底の底から、かつて娘が愛用した絵本をいくつか発掘した。

『ぐりとぐら』(中川李枝子/大村百合子)、『100万回生きたねこ』(佐野洋子)、『ごんぎつね』(新美南吉・作/黒井健・絵 )……などなど、娘の成長に応じて活躍してくれた絵本たち。
その一冊一冊が、「やあ、久しぶり!」と話しかけてくるような、親しみと懐かしさに包まれて僕の目の前に現れた。中でも、僕たち夫婦が特に忘れられない一冊が『ちびくろ・さんぼ』だ。

『ちびくろ・さんぼ』は、1953年に岩波版が出版されて以来、愛読者が絶えることなくロングセラーを誇ってきた。ところが、「アメリカでは“さんぼ”は黒人への差別用語」との指摘を受け、岩波版は88年に絶版となった。さらに90年代にかけて他の出版社も『ちびくろ・さんぼ』を絶版とした、といういきさつがある。

さて、僕の娘は89年生まれであるから、当時、本屋さんはもとより図書館にも岩波版『ちびくろ・さんぼ』はないという時代にあった。
このことを悲しんだのが妻だった。妻も『ちびくろ・さんぼ』に育てられたひとりで、あのバターになってしまうトラたちの場面に目を輝かせて成長していったのだ。「できたら、あの本を娘に読んであげたい」妻はそう言うのだった。

ある日、とびきりの笑顔で妻が家に帰ってきた。手には岩波版『ちびくろ・さんぼ』。見ると、それは新宿区立中央図書館の所有印が押されていて、さらにその印の上に「廃棄」という2文字が押印されている。
じつは、廃棄されたその本を友だちが手に入れ、それを借りてきたのだ。そして妻は「絵本は、何度も何度も子供に読んであげるものだから、ぜひこれと同じものを作って、わが家に『ちびくろ・さんぼ』を置きたい」と言う。僕も賛成だった。

当時はまだカラーコピー機など普及していない時代だったので、いろいろ考えたすえに、表紙は黄色い厚紙に(黒で)コピーをし、中ページは白い紙にコピーをし、トラやバターを黄色く塗ったりした。また第2話では、ちびくろ・さんぼの弟たち“ちびくろ・うーふ”の赤い帯、“ちびくろ・むーふ”の青い帯を、それぞれの色で塗り分けたりした(でないと、うーふもむーふも一緒になってしまうから)。

上の写真は、左が黄色い紙で作った表紙部分、右が表紙をめくった最初のページ部分。写真が鮮明でないのでわかりにくいのだけれど、右の写真の左下に「廃棄」印が押されている。
この本自体は、岩波85年版で、86年に図書として購入され、その後(おそらく88年に)廃棄されたものと思われる。それを90年代前半に、僕たち夫婦がコピーしたわけだ。

僕たち夫婦は、この本を娘に読み聞かせながら「“発禁本”を娘にあてがうワル夫婦」などと言って、苦笑していた。

今年4月、この岩波版『ちびくろ・さんぼ』が、約20年ぶりに瑞雲舎から、ほとんど内容を変えずに復刊された。読者からは、おおむね好評を博しているようだ。
瑞雲舎の井上富雄社長は「創作の経緯などを調べて差別性はないと判断した」として、9月にも続編を出版する予定らしい。また井上氏は「問題を考えるためにも、出版の自由において本は残すべきだ」としている。

とりあえずは、「おかえりなさい、ちびくろ・さんぼ」と僕は言いたい。


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林真理子さんの『着物をめぐる物語』


先日、「夜半、半身浴、半読半睡」という記事を書いた。夜中に半身浴しながら本を読んだり居眠りしたりする、いたってだらしのない僕流読書法のことだ。

なにしろ「半読半睡」であるから、数ページ読んでは数分間眠ってしまうわけで、どんな骨太なストーリーも、ちょこまかと訪れる睡眠によって切りきざまれ、いわばミンチ状態になった話の筋を混乱したまま読んでいることが多い。
登場人物Aの心理描写を読んでいるうちに眠ってしまい、起きた拍子に目にとまったBの行動描写につなげて読み進めていたりする。あれほど殺意をたぎらせていた男が、次の瞬間UFOキャッチャーでパンダをゲットして大喜びしたりして……、なかなかシュールだ。

そんな読み方を続けていると、ストーリーそのものにはさしたる期待感を持たなくなり、数分間で読む文章の断片(フレーズ)に思いが集まるようになる。
林真理子さんの『着物をめぐる物語』でも、そんなことが起こった。この作品は、11の短編から構成されていて、題名のとおり着物をめぐる11人の語りが収められている。

その中のひとつ『形見』は銀座の女の物語で、短い話なのだけれど、先ほど書いたような事情ゆえ筋は省かせていただき、気になった文章のみを抜粋する──

《銀座の女にはふた通りあるの。頭が悪くて不幸になるタイプと、純情過ぎて不幸になるタイプよ。どっちも同じようなもんじゃないかって言われそうだけど、根本が違うわ。純情過ぎるっていうのはね、脳味噌や心の中のあぶくが、あまりにも多く濃く出てくることを言うのよ。頭の悪い女っていうのは、泡ひとつ出やしない。脳のつくりが単純で平べったくなっているの。》

この文の内容(2種類の不幸な女ウンヌン)が気になるのではなく、ある箇所のフレーズに僕は度肝を抜かれた。半身浴ですっかり弛緩しきっていた神経が、キリリとその文字を反復読みしていた。そのフレーズとは──

《脳味噌や心の中のあぶくが、あまりにも多く濃く出てくる》

純情過ぎるというのは《脳味噌や心の中のあぶくが、あまりにも多く濃く出てくる》ことなのだそうだ。なんだか凄いぞ、と僕は思った。林真理子さんはこの“感覚”をどこで手に入れたのだろうか。このフレーズのモチーフとなるものが、何かあったのだろうか。たとえば、サルバドール・ダリの絵画からヒントを得たとか。あるいは、林さんの持っているきわめて独自の抽象性を言語化したものなのだろうか?
気がつくと、僕は半身浴状態のまま、この数行をじっとにらんで30分ほど過ごしていた。眠くもならず、冷めていくお湯も気にせず、ひたすら考え込んでいた。でも、答えらしきものには行き当たらなかった。

今もなお、僕は時折、新潮文庫『着物をめぐる物語』の36ページを開いては、この文章をにらんであれこれ思いを巡らせている。

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「読書感想文」本の選び方:よく見よ(笑)

「赤いセーターと読書は、女のもの」と思っていた子供の頃の僕にとって、夏休みの宿題の“読書感想文”は、拷問以外の何ものでもなかった。

小学6年の夏休みの時も、結局は読書感想文のみを残して8月31日を迎えていた。あと1日しかないというのに、まだ読む本さえ決まっていない(学校からの課題はなく、自由読書だった)。
とにかく本屋へ行った。きっとうつろな目をして本棚を見回していたのだと思う。僕はなるべく“簡単で”“楽しく”読めるものにしようと思った(←当然すぎる判断〈笑〉)。

ところが、本を読み慣れていないということはじつに恐ろしいもので、僕は“小さい本”(つまり、文庫本)のほうが文字量が少ないはずだから、大きい本より“簡単に”読めるだろうという、とんでもない判断をしてしまう。その段階で、児童文学的なものではなく大人の本棚に迷い込んでしまったのだ。

そして、“楽しい”本を探し始めた。どうやって? そりゃあ、題名しか頼れるものはないわけで……。背表紙のタイトルをひとつひとつ吟味した。本嫌いの小学6年生が考えつく最善は尽くしたとは思うよ、ウン。

で、僕は一冊の本を選び出した。なかなか興味深い題名で、本嫌いの僕がすっかり気に入ってしまった。
先ほども申し上げたように、僕は本というものを読んだことがないので、当然ながら本を買ったこともない。ということもあって、僕は、本を買うとき事前に内容を少しでも読んでみるということを思いつかなかったのだ。リンゴを買うとき店頭で勝手に味見するヤツがいないのと同様に、あらかじめ本を少し読んでみるなどという行儀の悪いことなどできるわけがなかった(どーゆー理屈だよ〈笑〉)。

僕は一冊の本を買った。何を? ジャジャジャーーーン! 倉田百三の『出家とその弟子』(新潮文庫)を。
僕は勇んで家へ帰った。「きっと、楽しいぞ、これは」と思いながら。

そして、同日、夕刻。僕は予想外の苦しみの中にいた。『出家とその弟子』が、予想外に面白くなく(てゆーか内容がぜんぜんわかんないし)、しかも小さい本なのに(笑)予想外にボリュームがあって前へ進まない。
ひと部屋向うでは、母親が夕飯の用意をし始めている。え! 夕飯! もう夜?
僕は額に脂汗を浮かばせ、数時間にわたる戸惑いはやがて苛立ちに変わり、さらには不安へと落ち込む中で、もう一度本の題名を見つめた。
そして、あんぐりと口を開けた。

な、な、な、な、なんだ〜〜〜、この本は!!!!

『出家とその弟子』?

僕は、その本の題字に、自分の知らない言葉を発見していた。「出家」? 「でいえ」って何よ?
そう、僕はとんでもない勘違いをしていたのだ。
僕があの時あの本屋で買った本の題名は、「出家(しゅっけ)」ではなく「家出(いえで)」のはずで、『家出(いえで)とその弟子』のつもりだったのだ。

『家出(いえで)とその弟子』とは、なんと背徳の香りただよう題名なのだろう! 小6の僕は、この不道徳極まりないタイトルに見入って、まんまと買ってしまったのだ。なのに……

『出家(しゅっけ)とその弟子』とは……。坊さんだってよ……。
親鸞の『歎異抄』の教えを戯曲化した宗教文学の名作って言われても、小6の本嫌いのガキには、ただただ鬱陶しいゴニョゴニョした文字列でしかないわけで……。
その夜、僕は、母から30分ほど夏目漱石の『坊ちゃん』を“取材”して、苦しまぎれな感想文を書いた。

あれから数十年が経っているが、あの時のドロナワ人生がなおも続いている(涙)。

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2005年07月25日

雪国は○、友情は×……?


僕は「ゲンかつぎ」というものをしないのだが、いま電話をしていた相手が、たまたま面白い「ゲンかつぎ」をしていることを聞き出したので、それをご紹介する。

その友だちは僕と同じライターで、職業柄なのか、言葉にまつわる妙な「ゲンかつぎ」をしている。「ゲンかつぎ」と言うより「今日の運勢」と言ったほうがいいのかもしれないが、面白いと思ったので、とにかくご紹介する。

やり方は、まず何でもいいから1冊の本を手に取る。しいて言えば、小説がいいようだ。しかも、読み終わったもののほうがいい。(ワケはあとでわかります)
その本を開き、小説の最初の1文を見る。次に、その小説の最後の1文を見る。そして、その2つの文を、百人一首の上の句と下の句のようにつなげて1文にする。
その“つながり具合”の良し悪しで、その日の“出来具合”を占うというものだ。あっ、やっぱり占か。でも、占いもゲンかつぎのようなものだから、説明続行(←オヤジ強引)。

たとえば、武者小路実篤『友情』でやってみると──
最初の1文は「野島が初めて杉子に会ったのは帝劇の二階の正面の廊下だった。」
最後の1文は「神よ助け給え」

この2つの文を、たんに上下に並べても1文にはならないので、それぞれの文から適当に文節をピックアップし、つなげてみる。
たとえば「野島が初めて杉子に会ったのは、神よ助け給え。」でもいいし、あるいは「野島が初めて杉子に助け給え」でもいい。
とにかく、上の句と下の句をつなげ合わせてみて、ヘンだったり、ビミョーだったり、ぴったんこカンカンだったり……、それを楽しみながら、きょうの景気づけにするというものだ。

ほら、子供のときに電車に乗ると必ず、キップについている4つの数字を四則計算して「10」にするという遊びをしたでしょ? 「10」になると、なんか気分がよくて、それだけでその日の幸先がよく感じられた、アレと同じだ。(ということは、やはり“占い”と言うよりは“ゲンかつぎ”に近いかも)
キップの「10」遊びが、言葉になったと思えばいい。ちょっと文学的(?)だし、やってみるとけっこう奥が深い(と、友だちは言っている)。しかも、名作がたった1行で読めてしまう……わけではない(笑)。

武者小路実篤『友情』は、ハマった感じがしなかったので、「本日は低調ゆえに、気をつけよう」といったふうに勝手に教訓をつくってしまうわけだ。

では、もうひとつ実例をやってみよう。
せっかくだから、川端康成の『雪国』で試してみよう──

最初の1文は、あまりにも有名な「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」
そして、最後の1文は「踏みこたえて目を上げた途端、さあと音を立てて天の河が島村のなかへ流れ落ちるようであった。」(「島村」とは主人公の名)

つなげてみよう。

「国境の長いトンネルを抜けると、さあと音を立てて天の河が島村のなかへ流れ落ちるようであった。」

おお、なんか、いいじゃないか! まるでスペース・ファンタジーのようだ!
たまたまだけど、こんな素敵な文が生まれた日は、なんかゴキゲンだし、運の神さまが味方してくれるに違いない!

最後に一言。まだ読んでいない小説の最後は、読まないほうがいい(笑)。


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